夢の噺。太宰治に会ったんです。
大きな屋敷の、長い廊下に、私はぽつんと立っていた。向かいから歩いてくる人が居る。江戸川乱歩だった。
乱歩先生は私に手招きをして、
「お兄さん。此方へ。」
と言った。言われるままに私は先生の後をついて行った。廊下の突き当たりに扉があり、屋敷の地下へ続く階段が伸びていた。降りると、障子戸があった。
「ここから先はおひとりで」と乱歩先生は言う。お辞儀をして別れる。
障子戸を開くと、そこは和室で、太宰治が畳に座っていた。
少しお喋りをした。深く内容は覚えていない。
先生が愛喫されていたタバコ、ゴールデンバットはなくなりました。
玉川上水は今入水出来るほど深くはありません、浅い川になっています。
などと伝えた。
話を終え、和室を出るとそこには海が広がっていた。砂浜に、2人で足をおろし歩き始めた。
空を見ると昼なのにも関わらず月が輝いていた。
私は聞いた。
「先生、あの月は何色に見えますか?」
先生は言う
「死んだ桃の花の色だ」
先生は聞く
「君の目には、どうみえるかね」
私は言う
「道化の涙のように見えます」
先生はチラと私を見ながら
「冗談言っちゃいけない」
と微笑しながら言うのであった。
握手をし、別れた。先生の手は大きくて温かった。
とても優しい人でした。