文房具屋童貞。

仕事が終わり立ち寄った文房具屋。

とくに何かを買う予定はない。 

しかし立ち寄る度見てしまう物がある。

『試し書きコーナー』である。

ペンの試し書き。

文房具屋の小さなアトラクション。

紙に書かれた個性的な文字や絵。

私は同じ筆跡が見当たらない試し書きコーナーを見るのが好きなんである。

いつもはその試し書きコーナーをふむふむと眺めて店を出る。

しかし今日の私は違う。 

人生初の試し書きを試みた。

0.5mmの油性ペンを手に取る。

キャップを抜き。

よし、と気合いを入れる。 

試し書き童貞喪失の瞬間。

 

あぁ...あぁ...

 

手が震える。

 

私の持病である『意味わからんところで緊張する症』の症状が現れ始めた。

 

ペンを持つ手の手首を左手で抑える。

落ち着け、落ち着け。

自分に言い聞かせる。

 

書けた。

 

『君は誰?』

 

試し書き童貞喪失。

大きく息を吐く。

 

息を殺して書いたそれを見る。

 

ニヤッとする。

 

楽しい。

 

るんるん気分で店を出る。